東北ブナ紀行(61 奥田 博

  今回紹介するブナの2山に登山道は無いため登るには積雪期に限られる。その分、自然度が高いかといえば、必ずしもそうではない。日本の山麓は人工林に覆われていることが多い。こんな山の中にまで?と目を疑いたくなる林を越えれば感動の自然林やブナ林が現れる、演出が用意されている。

87)石見堂山 1287m

朝日連峰と月山を結ぶ尾根の外れに石見堂山はある。もっと奥には赤見堂山が高く聳える。以前に天狗相撲取山から障子ヶ岳を経て、赤見堂・石見堂をGWに歩いたことがある。雪はタップリとあって、稜線は白かった。しかし高度を1300mまで下げると立派なブナ林が現れた。
そんな好印象を抱いて、石見堂山に直接取り付いてみた。ルートは大井沢に近い月山湖の脇。しかし尾根に乗るまでは急坂の連続に喘いだ。雪も薄い個所があって、ルート取りが難しい。尾根に乗ると何と杉林。これも急な斜面を上がると、スッキリとした狭い尾根歩きとなる。次第にブナも顔を出す。この辺はまとまったブナ林ではなく、みるべき一本ブナも少ない。やがて痩せた尾根に差し掛かる。クレバスもあって通過は困難な個所も、回り込み、遠回りしながら何とか越えた。
すると、見事なブナ林が現れる。遠く月山も見る余裕が出てくる。急だが広い尾根はブナ通りともいえそうだ。展望のブナ台地を越えると山頂だった。山頂には大石があって、遠く真白な赤見堂山はじめ大展望が広がる。

コースタイム:登山口(20分)尾根(1時間10分)ヤセ尾根(1時間)山頂


厳しい狭い尾根を越えれば穏やかな尾根にはブナ林が広がる

88)大頭森山 984m

朝日連峰の最後の集落である大井沢に住んでいたマタギの志田忠儀著「ラストマタギ」(角川書店)は、当時のマタギの生活と文化、朝日連峰の様子がドラマチックに描かれた本だ。その志田忠儀さんは昨年100歳で亡くなった。冬はウサギを撃ち、春先はクマを撃ち、春はゼンマイなどの山菜採り、夏はイワナを追い、登山道の整備、秋にはキノコ採り。自然を守ながら自然と共に暮らすことを貫いたその人生は、アッパレ!ラストマタギは、また文化の喪失でもあった。
志田忠儀さんの民宿『朝日山の家』の前を通り過ぎると、間もなく道は雪に阻まれ、ここから歩き出す。目指す大頭森山には東側の林道から夏道が開かれており、10分程の道中でブナを楽しめる。今回は西側から登るが、目指すは一本ブナ。急な谷を抜け、杉林を抜け、アップダウンを繰り返すと林道のような道形が現れ、それをたどって北に向かうと異彩を放つ一本の大ブナが見えてきた。その存在感は、志田さんを重ねずにはいられなかった。この日は、このブナの下でコーヒーを飲んで、ゆったりとした時間を過ごした。
コースタイム:登山口(1時間30分)大ブナ(50分)登山口


異彩を放つ大ブナはブナ林の中でも特に目立った


石見堂山


大頭森山


戻るブナ紀行目次へ